DX、BPR、業務改善と、業務の効率化を考えるなかで、しばしば「業務の標準化」という言葉がでてきます。
日本企業は、とにかくこの「標準化」を苦手としています。本日は欧米企業と比較しながら、「業務の標準化」について考えてみたいと思います。
【業務の標準化とは】
一般的に業務の標準化とは、「業務効率/業務品質/安全性等の視点を総合的に踏まえ、最適な業務手順(=標準手順)を組織的に定め、その業務手順を徹底させること。」であり業務標準化の主な目的は、「人によるバラつきの排除」「業務効率の向上」「業務品質の向上、安定」その活動のアウトプットは、「業務フロー」や「業務マニュアル」とされることが多いようです。
【日本企業と欧米企業の違い】
日本企業が業務の標準化を苦手とする根本の原因として組織における「業務」の定義が曖昧である点があげられます。ジョブ型の雇用形態をとる欧米の市場では、組織における「業務」は定義されていて、「業務」の遂行に必要なスキルを有する人材を採用しています。
ところが、メンバーシップ型の雇用形態をとる日本企業では(新卒の一括採用のように)まず「人ありき」で労働力を確保し、「手が空いていたら〇〇しておいて」と、新しい「業務」を作って与えることを良しとしているところがあります。
このため、現場レベルで日々「業務」が変化していき、「業務の標準化」を実施しようとしてもブラックボックスが散見したり、ひどく部分最適な範囲での標準化しかできなくなっているのです。
【日本企業vs製造大国ドイツ】
さて、そんな欧米企業との比較のなかでも日本の2倍以上の労働生産性を誇る、製造大国ドイツを例に考えてみましょう。ドイツでは「インダストリー4.0」を掲げ、中小を含めた製造業全体が、国全体を一つの工場とすべく標準化をすすめています。
この根幹にあるのは「自社において価値があり競争力につながる業務はほんの一握りという認識」であり、この背景には「ヨーロッパという(各国内の市場が小さく、主要市場がヨーロッパ全体となる)市場背景」「国内では各業界で主要な企業が1つ突出し、これらの企業が政府主導のもと、標準化を第一優先で考える」という、全体最適を考えた国策があります。
一方、日本には、業務の進め方が独自の方法になっていることを「優位性」としてとらえる「ステキな勘違い」が存在します。欧州と比べ国内の市場が大きいなかで、概ねどの業界においても3社以上の競合が存在し、ライバル関係となっていることで、この「優位性」の担保に余念が無いのです。
そんななか、この記事をご覧いただいている皆様も「マニュアル人間になるな!」「自分で考えて仕事しろ!」というような教育を受けたことが(もしくはしたことが)あるのではないだでしょうか。
日本人の脳は非常に優秀です。世界的にも難しいとされる「日本語」その言語背景からも、「行間を読む」等、まだまだAIでは真似できない領域が存在しているように感じます。
しかしながら、この優秀な脳を「ステキな勘違い」に振り切った結果、
・設備やシステムをつなげようと思っても、互換性が無く接続できない
・企業が連携(や合併)しても業務の進め方が異なり、効率が悪い
・同じ企業の中でも事業部や部門、拠点が異なると、業務のやり方が異なり施策が浸透しない
・データを利用しようと思っても、フォーマットが異なり活用できない
といった具合に、標準化が進まなくなってしまうのです。
【業務の標準化はどこから始めるか】
さて、そんな日本企業において標準化をすすめるにはどうしたらよいのでしょうか。筆者は2つのポイントが重要だと考えます。
- 定義と共通言語
仮に「受注業務の標準化だ!」と号令をかけても、
営業担当者からすれば「顧客から注文書を取得する業務ですね。」(取引先によってフォーマットが違うんだよなぁ…)営業事務の担当者からすれば「注文を顧客情報ごとにシステムへ入力する業務ですね。」(営業担当者や商品によって手順が違うんだよなぁ…)
と、担当者個人ごとにその「業務」の捉え方や課題感がバラついているケースをよく見かけます。
このまま「標準化」を目指しても、出来上がるのは超部分最適な「Aさんの考える、B社との受注プロセス」のマニュアルができるだけで終わってしまいます。
業務の標準化に先立って、まず始めに必要なのは以下の2点です。業務の定義:「業務 = インプット〇〇を××処理してアウトプット△△を出す」という定義
共通言語:第三者が見ても理解が出来るよう、視覚的な情報として整理されたドキュメント
話は飛んでしまいますが、「パッケージシステムを導入することで、パッケージに合わせた業務プロセスを設計する」といったプロジェクトを見かけることがありますが、実は、日本国内におけるシステム開発は半数以上が失敗しています。※出展_「企業IT動向調査報告書2024」
パッケージシステムの金字塔「SAP」はそれこそドイツの生まれですが、「パッケージシステムを入れることで業務を標準化する」のではなく「業務が標準化されているからこそ、パッケージが最大効率を発揮する」のです。
- 推進の体制
日本人は「既に定められたルール」に対しては非常に従順に従いますが、「今の環境からの変化」を極端に嫌う国民性をもっています。「2良くなるための1の変化」に非常に億劫になるのです。
そんななか、日本企業における「標準化」の推進には「一定の変化」を強行するだけの推進力が必要となります。
「今まで自分しかできなかった優位性」を否定し「最適な業務手順」に置き換える。
「自分の仕事がなくなってしまう不安」を払拭し、「新たな価値創造」として落とし込む。
「業務の標準化」の推進は、担当者個人レベルの話ではなく、組織全体の変革/課題解決のために、多少の痛みも覚悟したうえで、トップダウンで発信/推進することが望ましいでしょう。
【まとめ】
この記事では、業務の標準化について記述しました。業務の標準化は、国内での労働人口が減少する現代において「省力化」「効率化」の観点からも昨今、非常に注目されていますが、その推進は非常に困難なものともいえるでしょう。
記事のなかでも触れた「業務の定義」や「共通言語」について少しでも興味をもっていただけましたら、下記資料等もご覧いただけますと幸いです。
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